移転実例

2024.09.26

発想の転換促す離島拠点人や企業呼び込むまちづくり構想も

顧客の課題に合わせ、海外製のさまざまなソフトウエアを組み合わせて提供するシステムインテグレーションを手掛ける株式会社エクレクト。コロナ禍の2021年、広島市に西日本本社を設けました。リモートで働く社員が全国から集い、暗黙知の共有やエンゲージメント(愛着、きずな)の向上に手応えを得ているといいます。23年秋には大崎上島町と地方創生などをテーマに包括連携協定を締結。同島への拠点開設にとどまらず、食堂運営などにも着手しました。将来は島で過ごすことによるウェルビーイング効果を訴求し、事業者を呼び込むことで同島の課題解決にもつなげようとしています。社長の辻本さんに地方創生の思いや事業展望を聞きました。

〈プロフィール〉
株式会社エクレクト 代表取締役 辻本 真大(まさお)さん
1981年生まれ。

https://eclect.co.jp/

広島市や大崎上島に拠点 人材の育成通じて離島の課題解決図る

―事業内容と強みは?
―辻本さん 世界10万社以上が使うデンマーク発祥のクラウド型カスタマーサポートソフトウエア「Zendesk(ゼンデスク)」を中心に、世の中の優れたソフトウエアを組み合わせて顧客企業の課題解決を支援するシステムインテグレーションを手掛けています。ソフトの販売だけでなく、他システムとの連携や不足する機能の独自開発まで行い、取引実績は大手からベンチャーまで600社以上。Zendeskの販売実績はアジア地域トップで、4年連続で首位に当たる「GTM Partner of the Year–Japan」を受けました。

―広島に西日本本社を開いた理由は?
―辻本さん 17年の創業当初からリモートワークを推奨し、好きな場所で働ける体制を採っていましたが、コロナをきっかけに皆で集まる機会が一切なくなってしまいました。1人暮らしの若手を中心に閉塞感や疎外感を覚える人もいたため、全国から社員が集い一体感を醸成する場〝カルチャープレイス〟をつくりたいと考えたのです。

その時、まだ数十人だったベンチャーの当社が進出しやすい地方都市を検討し、手厚い広島県の誘致施策が後押しになりました。さらに、都市として程よい規模でありながら、自然との距離が近いのが大きな要因です。また、広島県出身の社員が多かったことも理由の一つです。

―23年夏、大崎上島町に設けた拠点の狙いは?
―辻本さん 希望する社員が一定期間寝泊まりし、仕事をしたり、社外の人を招いて勉強会を開いたりしています。いつもの常識が通用しない非日常の環境に身を置く中で、課題の発見・解決能力に優れた「未来に通用する人材」を育てる狙いがあります。豊かな自然とゆったり流れる時間の中で、DXに欠かせない、既成概念の枠を越えた柔軟な発想力を身に付けてもらいたい。

特に若者にとっては、「夜に食べ物を売っているところがない」といった一つ一つのささいな経験や気付きが教材になります。あらかじめ食べ物を用意しておくといった小さいところから、一つ一つ自分の頭で考えて行動できるようになるのです。

また、非日常の空間のせいか、会議室ではできないようなフラットなコミュニケーションがとれるようで、役員と若手社員、インターン生と取引先企業の社長などが役職や立場を飛び越えて熱い議論を交わしている場面をよく見かけます。規則正しい生活を送り、滞在後は皆が元気になって帰って来るという副次的効果もうれしいですね。

―同年秋、同町と地域創生に関する包括連携協定を結びました。
―辻本さん 島での生活の不便さに気付いたり、島民と接する中で困りごとの相談を受けたりすることがあるので、デジタル技術などを活用して解決していくことで、課題解決の一助になればと思っています。

先日は「島に定食屋さんがないよね」という会話を発端に、港にある町有の空きテナントに飲食店を開きました。普通のIT企業では絶対にやらない仕事ですが、やったことがないことに臨み、いろいろな人の助けを借りながらひとつずつ解決していく経験は何物にも代えがたい財産です。これらは本業の中でも必ず役立つと確信しています。

―世界と都市圏、地方をつなぐ「人と経済が循環するビジネスモデル」を提唱しています。
―辻本さん 当社はZendeskをはじめとした世界中の素晴らしい製品・サービスを扱っています。これをリモートで地方都市から東京や大阪といった大都市圏の企業に提案・導入しています。この業務を実施するDX人材の育成場所として離島などの田舎(カントリーサイド)を活用しつつ、地域の課題解決を行っていきたいと考えています。

24年度は叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部の保井俊之学部長の協力の下、島での暮らしや体験が仕事のパフォーマンスに与える影響を調べ、企業向けの研修プログラムを作る予定です。豊かな自然や人の温かさといった島の資産がもたらすウェルビーイング効果を科学的に証明し、当社以外の企業のオフィス開設や研修を呼び込みたいという思いがあります。ゆくゆくは当社がハブとなって島に人や事業者が集まる仕組みをつくり、島の経済に寄与できればうれしいですね。

―やってきて感じた地方の課題は?
―辻本さん 若い人の間で「地方で良い会社に就職できる」という認識がなく、就職先として都市に出るのが当たり前になっている。そこに構造的な課題があると感じます。豊かな自然や人の温かさといった地方ならではの資産を訴求し、魅力的な企業が集まるようにしていかなければいけないのではないでしょうか。

ビジネスの観点で言えば、都市部に比べて企業のDXがかなり遅れていると感じます。当社の顧客は首都圏が大半ですが、いずれ地元企業にも提案を進め、DXに貢献したいですね。

―地方は人材獲得が難しいとの声もあります。
―辻本さん 前職のIT企業で宮崎支社長として拠点立ち上げを経験し、地元の人を採用してカスタマーサポートのチームをつくりました。大半が未経験者でしたが、業務を通じた研修(OJT)の中で順調に成長し、地方には優秀で成長意欲の高いビジネス人材が眠っているのだと肌感で分かっていたので不安はありませんでした。実際、広島県にも優秀な人材が多く、大崎上島町でも新規採用をして拠点開設を一緒に担ってもらいました。

やりたいことは「ひとづくり」 自分の力で人生切り開く人材育てたい

―目指す組織像は?
―辻本さん 今まで組織の中で疲弊し、頑張って働きすぎて燃え尽きてしまう方々を何人も見てきました。緩いだけの仲良しクラブではダメですが、適度な負荷はありながらも助け合いながら仕事を進められる雰囲気の会社にしたいという思いが強いです。

こうした考えから当社に組織図や評価制度はなく、働く場所や時間も社員に任せています。社内のミーティングも極力しません。社員を信じているからこそルールを設けない。社員や取引先からの紹介によるリファラル(紹介)採用を主体に社員は140人規模まで増えましたが、皆がそれを理解し、実行できていると思います。広島市や大崎上島町の拠点はこうした企業文化を浸透させる場としても役立っています。

会社や組織というよりは、同じ思いを持つ人が集まったコミュニティーといったほうがイメージに合うかもしれません。目的を共有し、それぞれが役割を果たすことで事業が成長していく「自律的分散組織」が理想です。

求める人材像や学生へのアドバイスは?
辻本さん 「自分の人生を生き抜くために力を付けたい」と考え、前に向いて進んでいける成長意欲のある人であれば、スキルや経験がなくても活躍できます。一人一人の適性や希望に応じて新たに業務やポジションをつくることもあります。

社会に出るとさまざまな属性、考え方の人と連携して物事を進めていかなければなりません。年齢、性別、国、考え方などが違うさまざまな人と関わった経験は必ずプラスになると思います。バイトでもサークルでも何でも良いので、他者と積極的にコミュニケーションを取り、関係性の築き方を身に付けてもらいたいですね。

―今後の事業展望は?
―辻本さん 各地の眠っている人材を掘り起こしていきたいとの思いから、24年5月に名古屋オフィスを開いて全国6拠点としました。今後も多拠点化を進めたい。

24年春にはオーストラリアでの事業展開を見据え、準備室を開設。海外では初の拠点で、現地企業のIT利活用を支援するほか、現地の人を登用して日本の顧客向けのプロジェクトなどを検討しています。日本と比べて労働生産性が高く、同国の働き方や仕事の進め方を学び、積極的に採り入れていきたいですね。

〈プロフィール〉
株式会社エクレクト 代表取締役 辻本真大さん 1981年生まれ、神奈川県出身。関東学院大学を卒業し、2004年にITツールベンダーのシャノン(東京)に入社。複数の企業で経験を積み、17年12月にエクレクトを設立。21年7月、広島市南区に西日本本社を開設。23年秋、大崎上島町と地方創生に関する包括連携協定を結んだ。

ライターはこう思った!
社員140人以上と順調に事業を拡大させながらも、働く場所や仕事の進め方を社員に任せるマネージメント手法に驚きました。離島への拠点設置をはじめ、全ての取り組みの根底に辻本さんの「人を育てたい」、「社員を幸せにしたい」という思いを感じました。島での経験を通じて社員が育ち、事業が成長し、同社が先行事例となることで他企業も集まるエクレクト式「大崎上島モデル」のアップデートを楽しみにしています。

*広島本社開設の概要や開設の狙いについて、関連記事はこちら。
https://kurukuru.hiroshima.jp/archive/3509/

*ウェルビーイングの取組について、関連記事はこちら。
https://kurukuru.hiroshima.jp/archive/3355/

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