移転実例

2024.09.26

自律航行技術で離島を救う!

AIやロボット工学を活用した小型船の自律航行技術を開発する株式会社エイトノットは、2021年の創業直後から大崎上島などで実証実験を行ってきました。23年9月には広島市に開発拠点を開設。自律航行技術で乗組員の負担を減らすことで、定期航路の存続など離島の課題解決を目指しています。木村裕人社長に広島進出の理由や今後の展望を聞きました。

<プロフィール>
株式会社エイトノット 代表取締役 木村裕人さん
1983年生まれ。

https://8kt.jp/

船を「ロボット化」
住み続けられる離島へ

―創業の経緯は?
―木村さん
 SUPなどのマリンスポーツ好きが高じて5~6年前に船舶免許を取ったのですが、友人とボートで沖へ出た時、運転の大変さから全く楽しめずにショックだったことが原体験としてあります。海は目印となる建物や標識が無く、自分がいる場所がつかみづらい上、潮の流れや他の船、浮遊物など気をつけなければならないことが多過ぎるのです。自動車と同じくらい簡単に運転ができれば、海がもっと身近になるのではと考えました。「船をロボット化しよう」との考えの下、ロボティクス関連の仕事をしている知人らを誘って設立しました。

―創業直後から県内各地で実証を行っていますが、なぜ広島に目を付けたのですか?
―木村さん 
技術責任者が大崎上島の広島商船高専出身であることが大きいですね。現地でヒアリングをしてみると、定期航路の便数が少ないといった課題から、本土でのスポーツ観戦、コンサートなどに行けなかったり、夜間の急病時に本土の病院へ駆け込むための手段がなかったりと不便な状況が浮き彫りになりました。

住民の中には「生まれた島に住み続けたいが、スーパーも病院もなく、10年、20年後も住み続けられるか不安」と悲観的に話す人もいて、なんとも切ない。本土と同じようにスムーズな移動が可能になる技術をつくり、離島の人の役に立ちたいと強く思いました。

加えて瀬戸内海は内海で波が穏やかなため、技術開発に有利だと考えました。ちょうどそのタイミングで県のスタートアップ支援プログラムの公募が始まり、まさに「渡りに舟」といった感じで広島を事業の中心に据えました。

操船の負担を減らす
乗組員の採用・定着につなげる

―どうやって自律航行を可能にしているのですか?
―木村さん
 当社の自律航行プラットフォーム「AI CAPTAIN(キャプテン)」は、GPS、センサー、AI、ロボティクスなどの技術を組み合わせています。目的地を設定するだけで最適な経路を導き出し、他船や障害物、潮の流れや船の状態などを考慮して自動で航行。24年5月には船外機エンジンにも対応させ、より多くの船に対応できるようになりました。

現在は法律上、船の無人航行が認められていないため、乗組員を支援する操船アシスト機能として観光船、海上タクシーなどに導入しています。今後は離島の定期航路を管轄する自治体や民間企業に採用を働き掛けるとともに、海洋土木工事で使われる作業船や漁業などの水産関連にも拡販していきます。舶用機器メーカーなどに対する技術供与のほか、プレジャーボートの需要が高まる海外への展開も視野に入れています。

―事業を通じて実現したいことは?
―木村さん
 船の運転には海域の知識や経験が必要で、一朝一夕で身に付くものではありません。実際に瀬戸内海では船舶同士の衝突事故につながる恐れのある船の異常接近が多発しています。当社のサービスで安全航行をサポートして〝ヒヤリハット〟を減らし、乗組員の負担軽減、ひいては海運事業者の人材確保・定着にも役立ちたい。車の運転支援システムのように、AI CAPTAINが当たり前のように船に実装される未来を目指します。

―無人航行の実現のめどは?
―木村さん
 28年をめどに船の無人運転に関する国際的なルールが定められる見通しです。それに向けて技術の精度を高めていくと同時に、県と連携して国に規制緩和を呼び掛けていきます。許可が得られれば、25年中をめどに広島県内で無人航行の実証実験を行いたいですね。

「失敗しても良い」
チャレンジ後押しする企業文化

―23年に開いた広島オフィスの業務内容は?
―木村さん 
観光船など事業で船を扱うお客さまにAI CAPTAINを使ってもらい、改善すべき事柄を洗い出して、開発に生かしています。実証実験に協力してくれた同高専の出身者を迎え、現在は2人体制。今後、積極的に採用を行いたいと思っています。

―どんな人材を求めますか?
―木村さん
 海や船が好きな方が良いですが、知識は必須ではありません。ベンチャーなので、自分で考えて能動的に動き、それを楽しめる人が向いています。新しいことを始めるときはうまくいくことの方が少ないため、社員に常々「失敗してもいい」と言っています。トライしてダメだったとしても、やり方がダメだったということが証明できるので価値があります。他者を尊重し、人の意見を否定しない企業文化があります。臆せずにチャレンジしてほしいと思います。

―働きやすさの工夫は?
―木村さん
 社員の声を聞いて随時、社内制度を整えています。現在は、実証実験などで船長を務める場合に支給する「船長手当」などの運用に向けて準備を進めています。

「一人より複数で考えた方が良いアイデアが生まれる」との考えから、チャットツールのスラックなどを使ったコミュニケーションが活発で、月に一度、各拠点をリモートでつないで懇親会なども行っています。

<プロフィール>
株式会社エイトノット 代表取締役 木村裕人さん
1983年生まれ。神奈川県出身。カリフォルニア州立大を卒業後、アップルジャパン、デアゴスティーニ・ジャパンのロボティックス事業責任者などを経て2021年、大阪市に株式会社エイトノットを設立。趣味はマリンスポーツ。東京、広島に拠点。従業員はバイト・役員含め18人。

ライターはこう思った!
さまざまな業界で人手不足が深刻化し、AIや各種ソフトウエアの活用による生産性向上が進められる中、海の分野ではデジタル化が遅れていると聞きます。株式会社エイトノットは24年から観光船など実際のビジネスで使われる船への実装を加速しており、25年内をめどに、おそらく世界初となる完全無人航行の実証実験を県内で行いたいと考えているそうです。経験や勘に頼らず、誰もが安全に船を航行できるようになれば、離島の定期航路だけでなく、物流、水産、海上土木など幅広い分野の人手不足の解決につながるかもしれませんね。

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