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2025.04.21

「チャレンジする広島」へ。場所を問わない働き方の実践

2022年に江田島市にオフィスを新設したデジタルクリエイティブ会社「シフトブレイン」CEOの加藤琢磨さん(48)と、昨年広島市内に拠点を作った映像制作会社「イサイ」CEOの脇坂侑希さん(33)。研ぎ澄まされた感性でクリエイティブのシーンをひた走ってきた2人の対談が実現しました。広島に拠点を設けたのはどんな思いからですか? クリエイター目線で見て、広島にはどんなポテンシャルがあるとお考えですか?

加藤琢磨さん

1977年生まれ、長野県出身。千葉工大卒業。フリーランスでのウェブデザイナー・ディレクター活動を経て2003年に株式会社シフトブレインを創業。コーポレートブランディング を中心に、コミュニケーションプランニング、デジタルデザインなどを手がける。世界的なWEBアワード「Awwwards」など、国内外で受賞多数。2017年にオランダ支店、2022年に広島県内にサテライトオフィスを開設。福岡市在住。

脇坂侑希さん

1991年生まれ、広島市出身。広島市立舟入高等学校を経て大阪芸術大学を卒業後、2015年に株式会社イサイを設立。数々の有名アーティストのミュージックビデオやTVCM、ドラマなど各種映像制作を手がける。2024年に広島市に開設した事業拠点は、カフェ「MOOD COFFEE & BAKE」を併設。東京都在住。

ネットで完結するビジネス。それでも出会いから何か生まれる。

「東京にオフィスがあったままだと何も変わらない」と気づいたという加藤さん

ーー加藤さんは長野出身で福岡在住、脇坂さんは広島出身だけど基本東京ベース。それぞれ、広島に拠点を設けた理由は

加藤琢磨さん(以下、加藤):10年ちょっと前から時間や場所にとらわれない「いつでもどこでも自由に働ける会社」という方針を立てました。コロナ禍以降フルリモートとなり、いろんなところで働けるようにして日本全国から働ける人を採用できるメリットがあるのに、東京にオフィスがあったままだと何も変わらないなって。数年前、スタッフたちが海外でも働けるように、オランダのアムステルダムに拠点を作ったので、次は国内でも探していたら、広島県の企業誘致の助成制度を知りました。

ーー広島県は、県内への本社移転に対する最大1億円助成など、オフィスの移転や工場新設を行う企業向け助成のほか、スタートアップ支援、移住促進などに積極的に取り組んでいます

広島県のオフィス誘致はHP上で移転シミュレーションが可能

加藤:新しいことにチャレンジする県の姿勢に共感し、これは新しいし、おもしろいなと思って関わりたいと考えたことが一つ。もう一つは、うちのクリエイターの中に海外を転々としながら働くみたいなメンバーがいて、その彼がちょうどオーストラリアから帰ってきて日本で移住先を探していました。タイミング良くこの広島県の取り組みのことを話し、本人を連れてきたら、めちゃくちゃ江田島を気に入ってしまいました。もともと縁があったわけでもないのですが、島の自然とか人の温かさに惹かれたようです。

江田島の穏やかな自然と人の温かさが決め手に

弊社で作るもののほとんどはデジタルデータなので、業務自体はリモートでも問題ありません。インターネットがあれば全部完結しますし、出社するとむしろパフォーマンスが落ちるスタッフがいるほどです(笑)。でも、やっぱり人と人との信頼関係は会って体験しないと生まれない。江田島は、みんなが集まって考える拠点にもなってます。フェリーに乗って島を見ながら出社できるというのは、かなり稀な体験ができる場所だと思います。まるでアジアの離島を旅しているような錯覚さえ感じます。

いつかは地元で事業を。東京から広島への逆輸入。

地元・広島への貢献が大前提にあると語る脇坂さん

脇坂侑希さん(以下、脇坂):僕は、広島でいつか事業をするって、2015年の設立当初から決めてたんです。父が「脇坂ガラス」という食器の卸売業の3代目なんですが、会社を立てた曽祖父は、僕が生まれてすぐ亡くなっているんです。原爆の後、みんなにご飯を食べさせるため、お皿を集めてきて配って、そこからお皿屋さんを始めた人らしく、そういう話を聞いて、いつか僕も広島で何かしたい、広島に貢献したいなって。拠点を作る計画があったんですがコロナで一回ストップして、落ちついたタイミングで再出発しました。

ーー最初からの計画だったんですね

脇坂:僕、広島の学生時代が楽しすぎて、高校の同級生を全員会社に入れたいぐらい(笑)。だから、早いうちに広島で事業がしたかった。実際、同級生と一緒に起業していて、1年ごとにさらに同級生を入れている感じです。まず東京で始めたけど、東京でやってきたことの何を広島に逆輸入できるか、そこから広島でやっていくことを整えるイメージで拠点を作っています。

やりたいことが毎年変わるけど、クリエイティブであれば際限なく、すべて興味があります。例えば陶芸もそうだし、建築とかも。そして、それに自分もクリエイターとして入りたいですね。

人生が変わる出会いを 広島から子どもたちに

広島には、もっとおもしろくなる伸びしろがある。SHIFTBRAINのえたじまサイト

脇坂:広島でいつかやりたいのは、子どもたちのクリエイティブな活動のきっかけになる仕掛け作りです。経験からいろんなことを教えられるようになったので、その教えるってことを今後やっていきたい。東京でやろうとすると結局参加費が高騰して富裕層向けビジネスになってしまうんですよね。高い教育を受けられる子は、それがなくても学ぶ選択肢が与えられるけど、そうじゃない。誰もが遊びながら学べて、それによって人生が変わった、みたいな子を増やしたいんです。それを地方からやりたいし、一番知見がある広島で始めて全国に広げたいです。

加藤:その話にはとても共感できますね。東京は良くも悪くも競争社会だし、クリエイティブでビジネスをする場合、高単価商材にしていかないと成り立たないケースが多い気がします。その点、地方の方が気軽にアクションできるし、勉強の場でもカジュアルに人を集められる。
デジタルクリエイティブ業界を盛り上げるために、弊社も2022年に他社と共同で、iDID(アイディアイディ)という事業を始めました。コロナ禍以降クリエイター同志が集まる場がなくなったり、クリエイターが作った実績の情報が流出しなくなってしまったので、交流の場を作ったりSNSやnoteを作って情報発信する活動をしています。そして、まもなくオンライン型のスクール事業を始める予定ですが、東京よりも地方在住の方に参加してほしいと思っています。こういった活動の末、もっと若い人たちが入ってくる業界になるように盛り上げていけたらいいなと思っています。

若者よ、むしろ外へ出ろ。戻れる場所は、作るから。

ーー若い世代の人口流出が、現在広島では課題になっています

脇坂:みんな出て行くと思いますよ。高校時代の同級生もみんな出ている。でも僕はむしろ、外に出てほしいぐらいに思っています。出て行った人たちが帰ってきたいって思ったときに、クリエイティブで働ける場所を作っておきたいという思いはありますが。

東京だけでなく、福岡や関西など、わりと近いところに、広島よりカルチャーが濃いところがあるから、出て行っちゃう。だから、広島がもっと楽しく活性化して、カルチャーのあるところになるといいですね。大阪とか福岡とかと遜色ない地域にしたいですよね。

加藤:自分の居場所みたいな話ですけど、今まで「地方か、東京か」っていう対立構造だったような気がします。それがコロナ禍以降、デジタルで全て繋がれるようになってから、「地方ー東京」ではなく、「地方ー東京ーインターネット圏」というように、居住地を特定しなくてもよくなったと思うんです。

今、自分はそういった場所を特定しない人たちにおもしろさを感じています。東京だろうが、地方だろうが、場所に固執することなく、常にフットワーク軽くおもしろい人、イベントがある場所へ移動しているような移住国民みたいなのが標準になればいいなぁと思っています。

特色ある地域で育った次世代にこそ可能性を感じている

広島にはチャレンジ精神がある。歴史だけじゃない強み発信。

ーークリエイティブ観点で広島のポテンシャルってどこにあると思いますか

加藤:自分が広島をブランディングするなら、歴史的な背景も含めて文化資産があることだと思うので、そこを中心にクリエイティブを考えるとは思います。個人的には「広島で働くという選択」(リンク:https://kurukuru.hiroshima.jp/support/officelab/)という企業誘致施策がネットで大きく話題になってからは、「広島のチャレンジ精神」が他の県にはないユニークさだと感じています。広島ってあんなことやっちゃうんだ、っていつも感じるんですよ。そんなチャレンジ精神をクリエイティブの力でブランディングできたらおもしろいなぁと思いますね。

脇坂:中学生ぐらいの時から、(広島市)三滝の竜王公園に自転車で週1回とか行ってました。高い場所から広島の街並みをぼーっと見てると落ち着くんですよ。今も帰ったらのぼります。今に繋がってるというか、景色を見にいくというよりは、中学時代の自分に会いに行っている感じですかね。

竜王公園から見た広島市街地。脇坂さんの原風景

広島は街がきれいです。自然と町並みが融合してる感じが僕は好きです。ロケ地としてめちゃくちゃいい。すぐ川が向こう側にあって、山があって、街も近くて、自然があって、建物があって歴史もあるって割と京都とかと戦えるぐらいのイメージがある。切り取れる場所が多い。僕の手の届く範囲で考えると、いろんな映画を広島拠点で作ったりとか、広島がロケ地の映画をたくさん作るとかで割と変わってくる気がします。

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