移転実例

2024.09.26

国内最大級の壁紙工場が東広島市に誕生 クレアネイトが広島に工場建設を決めた理由とは

東広島市の県営高屋東工業団地で、国内最大規模となる壁紙工場の建設が進められています。インテリア資材の大手商社サンゲツ(名古屋市)の子会社で、住宅用などの壁紙を製造するクレアネイト(東京)の東広島工場です。東日本エリアに製造拠点を構える同社が、なぜ広島に工場建設を決めたのか。井上弘一社長に広島進出の背景や今後の展望などを聞きました。

<プロフィール>
クレアネイト株式会社 代表取締役社長
井上 弘一さん
1961年生まれ。

https://www.creanate.co.jp/

安定した地盤に加え、交通利便性も良い

―なぜいま、壁紙の工場を新設するんですか?
―井上さん
 皆さんのすぐ身近にある壁紙ですが、じっくりと触れて観察する機会はなかなかないかもしれませんね。住宅内装用の壁紙には大きく分けて2種類があります。分譲マンションや賃貸物件向けの「汎用品」と、消臭や汚れ防止などさまざまな機能の付いた注文戸建て向けの「一般品」です。

国内の住宅着工数は伸び悩んでいますが、最近では一般品に限られていた機能が汎用品にも付加されることで汎用品の需要が増大しています。そのため、業界全体で汎用品の供給余力が不足している状況にあります。

―御社の生産体制について教えてください。
―井上さん
 当社は国内シェアの約20%を占めるトップメーカーです。現在は、岩手県の一関工場で汎用品を、千葉県の成田工場で一般品を造っています。特に一関工場はフル稼働の状態が続いています。これからも受注は堅調に推移すると見込んでおり、親会社のサンゲツの供給責任を果たすためにも、新たな生産体制の構築に迫られていました。西日本に工場を建設する計画は、当社がサンゲツの傘下に入る2021年以前から検討を始めており、ようやくここまでこぎ着けることができました。

国内3工場体制となることで、生産余力を生み出せます。東広島工場はグループの生産力を最大7割引き上げる計算です。災害などの生産トラブルなど緊急時にもバックアップすることができ、安定供給を持続的に実現できると考えています。

―なぜ東広島市を工場建設地に選んだんですか?
―井上さん
 既存の2工場はどちらも東日本エリアにあり、新設する工場はBCP(事業継続計画)の観点で西日本に建設しようと計画しました。原料となる塩化ビニール樹脂などは瀬戸内地域の業者から調達しており、原材料の調達と、西日本全域への完成品配送の距離を共に大幅に削減できるメリットもあります。

当初は岡山県から用地検討を始めました。しかし長期的な視点での水災害リスクがネックに。そこで企業誘致に力を入れる隣の広島県庁さんに相談をさせてもらいました。そこで紹介を受けたのが東広島市高屋台にある県営高屋東工業団地内の民間遊休地でした。30年以上更地の状態で、造成したばかりの工業団地よりも安定している土地でした。形もほぼ四角で工場レイアウトがしやすかったのも良かったです。

広島空港から近く、何かあった場合に首都圏からすぐに駆け付けられる立地も優れていました。高速道路との距離も近く、総合的に判断して東広島市を選びました。

車で20分ほどの場所に比較的人口の多い西条があることも、人材確保の観点で大きな要素でしたね。

―環境に配慮した施設運営について教えてもらえますか。
―井上さん
 これまでは岩手県の工場から主力の壁紙を出荷しているため、まず西日本に拠点を設けるだけで、原材料の調達や製品の配送距離を大幅に削減することができます。結果、配送に伴う温暖化ガス(GHG)排出量を減らすことが可能です。

また新工場で使う燃料は、重油から液化天然ガスに転換することでも温暖化ガスの排出量削減につなげます。屋上に太陽光パネルも設置し、環境に配慮した工場になります。

身近な住宅、オフィスの空間を演出

―オープニングの採用を強化しています。
―井上さん
 来春の新卒者と中途入社を合わせて、来春までに30人以上の採用を計画しています。フル稼働だと80~90人規模になると想定しており、継続した採用活動が欠かせません。

進出が決まってから、東京にいる執行役員らが頻繁に広島を訪ね、広島の社員と共に、近隣市町や隣県の高校、大学などを訪ねて歩いてきました。まずは広島に腰を据えて製造することを知ってもらう活動だと考えています。新しい工場で働き始められるオープニングスタッフには一定の人気があり、来春の30人体制へ、働き手は少しずつ集まっています。採用活動は今年が正念場です。

―仕事のやりがいは何ですか?
―井上さん
 壁紙は多くの人の身近な場所にあり、それを造るやりがいがあります。当社には蓄積したノウハウがあり、製造工程で特別に難しいことをやってもらうわけではありません。しかし当社の製品は「装飾品」に当たります。最後は人が目で見て、手で触れ、製品の出来をチェックします。そこは繊細な作業があります。

毎日、多くの製品が出荷され、それが多くの住居や事務所に使われて空間を演出します。テレビドラマで使われるようなこともたびたびあり、出来る限りそういったトピックスを社員に共有することでモチベーションにつなげています。

―働きやすい職場づくりも進められるそうですね。
―井上さん
 工場新設を機に、これまでのシフト制による土日勤務を見直します。土日休みの完全週休2日制とし、働きやすい労務環境の整備に努めていきます。

いま、壁紙製造以外の新事業も検討を進めています。自社のノウハウを生かした新たな柱をつくろうと、既に一部が動き出しており、挑戦を続けていきます。

―採用時にどのようなメッセージを伝えていますか。
―井上さん
 地元にしっかりと根付いて働いてもらえることを伝えています。
確かに日本国内は人口が減り、新築着工件数は減っていますが、家がなくなることはありません。リフォーム需要は今後も増えますし、住宅以外のオフィスや工場などさまざまな場所で壁紙は使われます。そのため、壁紙は成熟産業ではありますが、この先も欠かすことができない製品であり続けます。

業界最大規模の工場というサンゲツグループを挙げた一大プロジェクトであり、これから稼働するこの工場はぽっと来て、ぽっといなくなるようなものではありません。この地で安定供給の一翼を担い、稼働し続けます。

その点で、当社の社員さんはこの地で安定して働いていただける。新たな東広島工場をけん引する人材となる方を採用し、より良いモノづくりに向けて一緒に汗を流していきたいです。

―広島の印象はいかがですか。
―井上さん
 広島は快活な人が多いですね。どちらかといえば寡黙な県民性の岩手県の既存工場との土地柄の違いを既に感じています。コミュニケーションも取りやすい。しっかりと社員と交流を重ねて、良いチームをつくっていきたいですね。

<プロフィール>
クレアネイト株式会社 代表取締役社長
井上 弘一さん
1961年生まれ。埼玉県出身で、横浜国立大学を卒業し、新卒でアデランスに入社。その後、クレアネイトの前身となる日本ウェーブロックに入社。塩化ビニール加工などの技術畑を歩み、2017年に社長に就任。広島との直接的な縁はこれまで特になかったが、夫人が大のカープファン。「プライベートを含めて広島との縁は強くなりそう」と語る。

ライターはこう思った!
取材するまでは、身近にあり過ぎて意識することがなかった住宅用の壁紙。
意識を向けてみると、思った以上に多種多様な柄、色合いがあることに気付きました。

工場完成後の引き渡し日に取材に伺いましたが、室内にまだ設備の入っていないこともあり、その広大な工場に驚きました。
ここに多くの機械・設備などが設置され、ここから西日本全域に〝広島産の壁紙〟が出荷されると考えると、ワクワクしました。

工場新設は地域に及ぼす経済効果が大きく、広島の工場立地の魅力がさらに広がることに期待したいです。

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