コロナ禍を機に東京のIT企業を辞め、会社を設立した安西翔平さん。その5か月後には、会社も生活拠点も広島県江田島市に移し、古民家を借りてオフィスにリノベーション。ともに移住したスタッフと、地元業者のDX支援事業やIT教育事業などを推進しています。安西さんが江田島を選んだ理由とは? 仕事や暮らしの変化は? いろんな問いを投げかけながら、地方で事業展開していくヒントを探りました。
<プロフィール>
合同会社Gene Leaf代表 安西 翔平(あんざい しょうへい)さん
神奈川県生まれ。19歳で大学を中退し、ワーキングホリデーでドイツへ。難民にプログラミングを教えるボランティアに従事。帰国後、NPO法人で日本の難民向けプログラミング指導・就職支援に携わる。2019年、東京の人材育成・派遣会社に就職し、地方出身の中・高卒者向けキャリア支援を担当。コロナ禍で独立を決意し、2020年に合同会社Gene Leafを設立。2021年、江田島市に会社と生活の拠点を移す。https://gene-leaf.co.jp/
東京から江田島に6人で企業ごと移住
ー広島県を移転&移住先に選んだきっかけを教えてください。
ー安西さん 友人のリツイートで、広島県の企業誘致を知ったのがきっかけです。東京の会社を辞めて独立したばかりで、新しい拠点を探している最中でしたし、山育ちなので、以前から「海を見ながら働きたい」という憧れがありました。
そこで、「海 オフィス 広島県」で検索。移住サポートやコワーキングスペースを提供する江田島市の交流拠点「フウド」を見つけて、「明後日行っていいですか~?」とアポを入れたのが始まりですね。
ーすごい行動力ですね。迷いはなかったのでしょうか?
ー安西さん とにかくコロナ禍で滅入っていて、「どっかに行きたい!」というエネルギーが放出されたんでしょうね。
コロナの影響でサラリーマンの時も起業した後も、ほとんど自宅で仕事をしていました。そんな中で狭小住宅に高い家賃を払っている理由が分からなくなったんです。
独立時のメンバー6人は関東・関西出身ですが、「江田島に行くけど、みんなも来る?」と打診したら、「行く!」とみんな賛同してくれました。
ーえ、そんな軽いノリだったのですか(笑)。安西さん自身の江田島進出の決め手は何だったのでしょう。
ー安西さん 移住の窓口になってくれた「フウド」から見える、海の美しさですね!その海を見た3日後には、「江田島に企業ごと移住しよう!」と決めました。
あまりにも決断が早かったので、オフィス物件探しなどでお世話になった江田島市役所の方に、「もっとよく考えて!」と言われたくらいです(笑)。
― そのスピード感、素晴らしいです。
都市と地方の教育・環境・経済など、世の中の理不尽をITのチカラで解決したい
― 江田島に拠点を移して、仕事内容の変化はありましたか?
ー安西さん Gene Leafとしての事業内容に大きな変化はなく、システム開発やWEBサイト制作などを受託しています。
これらを「開発事業部」で担当し、新たに立ち上げた「広島事業部(地域創生部)」では、主に地元の農家さんなどの支援事業を行っています。
つい最近も、江田島産トマト「江田島ロマーノ」のECサイト開発・集客フォローなどを手がけました。サイトオープン後の反響は上々で、けっこう注文が入っているようです。
― 新しいクライアントはどのように開拓を?
ー安西さん ほとんどが口コミや紹介ですね。
「サイトのアクセス数が増えない」というような困りごとを相談されたら、サイト再構築のために、まずは経営者の思いをヒアリングするところから始めています。
写真・動画撮影なども社内で行うんですよ。
移転後、地元出身の社員を1人採用しましたし、今はインターン生2人の力も借りて、みんなでカバーし合って案件を進めています。今日、出社している成毛侑瑠樺(なるげうるか)さんも、インターン生の1人です。
― せっかくなので成毛さんも自己紹介を!
ー成毛さん 熊本出身、叡啓大学の2年生です。私のFBを見られた安西さんから連絡をもらって、こちらのお手伝いするようになりました。今後は主に教育事業を担当する予定です。
初めて江田島に来た時の印象は…船に乗った瞬間から「好き!」です。
― 教育関連事業は、どのような想いで始められるのでしょうか?
ー安西さん そうですね、地方と都市間に教育格差があることや、家庭環境・経済的な理由などで学ぶ意欲を失う人がいることに、自分の経験も踏まえて、理不尽な思いを抱えてきました。誰でも質の高い教育を受けられる体制を作りたいというのが、ずっと根本にあります。
― その思いも少しずつ具現化していますか。
ー安西さん 江田島に来てからは、市の「DX推進本部CIO補佐官」に任命されたこともあり、だんだん理想的な活動ができるようになりました。
例えば、「学びたい(習わせたい)けれど、教えてくれる場所がない」という、地域の親子に向けたプログラミング教室の開催や、県立大柿高校へのサイバーセキュリティ系の出前授業など。プログラミング教室はなかなか評判が良くて、先日は70人の親子が集まってくれました。
江田島の暮らしには、ライフスタイルを選択する余白がある。
― 移住後、気持ちの変化はありましたか。
ー安西さん 東京はいろんな欲望が増幅される街だったので、そういう面ではラクになりました。先日、東京出張した時に銀座で食事したんですが、ドリンクだけで1,800円もするんです。お代わりしたいけれど、なかなか頼む決心がつかなくて……。こういうのって不幸せだなと思いましたね(笑)。
― なるほど(笑)。江田島での日常はいかがですか?
ー安西さん 実は、東京にいた時よりも好きな飲食店が増えたんですよ。チェーン展開していない個人経営の店ばかりなので、食事代がそのまま店主に渡るというシステムもいいし、お互い自然に顔見知りになれるゆるい感じも好きです。移住してよかったと思うポイントの一つですね。
― それでは最後に、地方進出を考えられている企業にメッセージをお願いします。
ー安西さん 江田島市は、島らしい暮らしを求める人には自然豊かなエリアがあるし、利便性を重視する人には、港の近くに住まいを構えるなど、江田島での暮らしはいろんな意味でライフスタイルを選べると思います。
私のように、職場も生活も一気に変えるのはハードルが高いと思うので、気になる方はまず一度、お試しで来島してみるのはどうでしょうか。コワーキングスペースもありますしね。そして、その時はぜひ当社にも遊びに来てください。
ライターはこう思った!
終始おだやかな口調で語る安西さんでしたが、話の内容の端々に行動力・決断力が垣間見られ、その源となっている意志の強さも感じました。
江田島から企業ごと移住し1年半、口コミや紹介でオファーが絶えないのもすごい。それは、安西さん自身の努力はもちろん、「地域を盛り上げたい」「子どもたちに教育を届けたい」という真面目な思いが、地元のみなさんに伝わっているからではないでしょうか。時には、島での祭りや、居住地区の草刈りに参加するなど、着々と江田島に根付いている様子。地方だからこそ埋もれている、ビジネスチャンスはまだまだありそうですが、それをつかむには、熱心さ・真摯さが大前提なのだと思いました。